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ポケットの中(が原因)の戦争 1
 いつものように退屈な朝をさらに憂鬱にさせられる。今日もまた、あの「私は頭が悪いんです」と声に出して歩いているような間抜けな喋り声のノビノビタに出くわしてしまった。あのドラエモンの野郎も一緒だ。
「おはよー。ヒロシせんぱ〜い」
 悪意というもの存在をおそらく知らないであろう人懐っこい声で、中等部の学生でほとんど交流の無い僕に話しかけてくる。
「おはよう。ドラエモンも一緒なんだね」
「おはよう、ヒロシくん」
 こいつの声も癪に障ってしょうがない。この毛虫が丸一日カラオケを歌い続けて喉が潰れたような声はどうだ。しかし、ドラエモン監視委員会がきっとこの様子も監視しているに違いないので、僕は忌々しい思いをかみ殺して挨拶をかわす。

 信じられない話だが、22世紀の世界は、アメリカと中国が覇権を争い、より世界情勢は混沌としており、日本は経済が破綻する寸前で、治安は悪化し、東京の中心部はまるでブエノスアイレスやリオデジャネイロのスラム街のようになってしまっているらしい。
 そんな先行きに希望が全く抱けない日本に突如現れた天才科学者セワシ博士が、「透明マント」というその名の通り被ると透明になるマントを開発し、22世紀の化学の粋を結集した数々の道具を、僕らには理解できない未知の四次元に繋がっているポケットに詰め込んだ「Domestic Radiant Existence, Mend a Our Nation」とコードネームを名付けられたロボットを透明マントで隠して、未来の世界ではご法度中のご法度らしいタイムスリップで現代の日本に送り込み、その頭文字をとってドラエモンと名付けられたロボットは、直訳すると「私たちの国を正常にする、日本の光を放つ存在」みたいな大仰な名前で、現代の日本を未来の化学の力で輝かしい未来に導くためにやってきた。
 そんなドラエモンが身を隠す先として選ばれたのが現代の日本で一番頭が悪い子供らしいノビノビタの家で、ノビタは突然机の中から現れた謎のロボットと変装したセワシ博士の、自分はノビタの孫で、ノビタの所為で今の自分のお小遣いが少ないから、ノビタの生活を正すために未来のお世話ロボットを送り込んだ、という嘘をまんまと信じてしまった。そして両親をノビタと一緒に22世紀の日本に招待し、両親にはドラエモンを派遣した本当の理由を説明し納得させたのだという。いや、本当は脅迫されたのかもしれない。断ることは許されない、と。
 そして、ドラエモンがノビ家に送り込まれてきた日の夜、この町に住む全ての人間が学校に集められた。正確には、気が付いたときには家の居間でテレビを見ていたはずの僕が、そしておそらくは同じように、全ての町民が学校の体育館にいたのだった。たった1人の例外、部屋で深い眠りについていたノビノビタを除いて。
はてなブックマーク - ポケットの中(が原因)の戦争 1 | 21:33 | フィクション | comments(0) | trackbacks(0)
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